○人口減少下のわが国の経済成長について

―需要、供給面からの経済論争のすすめ―

 

 わが国の財政赤字は巨額に上っています。

 一方、社会保障費をはじめとして国の財政需要は今後とも膨らんでいきます。

こうした中で財政再建をどのようにすすめるかは、極めて大きな政治的課題です。歳出の無駄を徹底的になくすことが第一であることはいうまでもありません。しかし、歳出の無駄をなくせば、財政再建ができると考えられるほど財政再建は簡単な問題ではありません。

 基本的には国の歳入(税収)を増やすことが必要です。税収を増やすには、①増税、②経済成長による税収増、の二つの道が考えられます。どちらを選択するかは、これからの日本経済をどのように見通す、あるいは誘導するかによって変わってきます。

 「上げ潮路線」と呼ばれる高い経済成長の実現をめざす方々がおられるようです。イノベイション(技術革新)と規制緩和によって、企業の持つ力が引き出され、高い経済成長が可能だというものです。大変結構なことだと思います。

 しかしちょっと考えてみる必要がありそうです。

 経済が成長するということは、社会全体が生み出す物、サービスの総量が増えることです。生み出された物、サービスは誰かが消費することで経済は循環します。生産される物、サービスに比較して消費量が少ないと、生産量はいずれ減少します。生産力があっても消費がなければ経済は成長しないのです。

 経済成長を決める基本的要因としては、供給能力(生産)と有効需要(消費)の二つがあり、それらはバランスが取れていることが必要です。

 消費は国内で消費されるもの(内需)と、輸出されるもの(外需)の二種類があります。内需が少なくとも輸出でそれがカバーされると経済は成長します。こうした経済は外需頼みの経済といわれます。

 外需頼みの経済には大きな問題があります。輸出によって国際収支の黒字を積み重ねていくとやがて為替市場が反応して円の価値が上がり(円高の進行)、やがて輸出競争力がなくなっていくことです。外需頼みの経済には持続性に限界があるということです。

 したがって内需の拡大が経済成長には不可欠ということになります。内需の拡大とは企業の設備投資と国民消費、政府支出が基本となります。この中で、もっとも重要な要素は国民消費です。

 国民消費が増える要素は二つあります。一つは人口増加です。人口が増えれば総和としての消費も増えます。もう一つは、一人当りの消費が増えることです。

 しかし、わが国は人口減少社会に入っています。これから日本は世界史上類例がない速度で人口減少が進むといわれています。そうすると国民消費が伸びるためには国民一人当りの消費が伸びる、しかも大きく伸びなければなりません。

 

 ここで一つの疑問が生まれてきます。国民は何によって消費を拡大するのでしょうか。

 医療、介護などのサービス拡大への国民の期待は確かに大きなものがあります。今後こうしたサービスの安定的提供、内容の充実は、政治的な課題でもあります。しかし、これらのサービスの消費は、高齢者に集中するもので、国民全体の消費の拡大にどこまで寄与するかは不透明です。

 高い経済成長を模索することは必要です。しかし、それは、技術革新による生産性の向上という供給サイドからの議論だけでは、完結しません。これから国民一人一人はどういう生活を目指すのか、その結果、消費はどうなるのか、という需要サイドからの議論とがセットになる必要があります。

 「上げ潮路線」といわれる論者から、こうした観点での議論が聞かれません。

 実は、エコノミスト、経済学者といわれる方々から、人口減少社会に入ったわが国の今後の経済見通しについて需要、供給サイドの両サイドから議論されるのをほとんど聞いたことがありません。戦後の高度経済成長をめぐり、戦後最大の経済論争とされる官庁エコノミストといわれた下村博士と都留博士をはじめとした経済学者の激しい論争がありました。結局、高度経済成長を予測し、池田内閣の所得倍増計画の理論的な裏付けとなった下村理論の正当性が日本経済の発展によって証明されます。

 今、必要なのは、新しい時代に沿った平成の下村・都留論争です。

 私自身がこうした議論に参加できる力量はとてもありません。しかし、「上げ潮路線」といった中途半端な議論ではなく、本当の経済論争が起きるような環境作り、雰囲気作りにしっかり取り組んで参りたいと思っています。

 

 これまで繰り返し言ってきたことですが、財政再建はこれ以上の先送りができないところに来ています。どのような選択をするにせよ、とるべき方策を、慎重に、かつ大胆に決めて、実行していかなければなりません。



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